ひとびとの跫音

司馬 遼太郎
中公文庫

★★★★☆


” 死ぬということは
もう会えないということだ
それから上でもなければ下でもない
だから悲しいんだ ”




大正から昭和の時代に生きた、まったく無名だけど正岡子規の養子である人と、中ぐらいに有名な詩人で共産活動家である人、この2人の人物を描きつつ、子規本人、その妹・律、周囲の友人・縁故の人々の生きた足跡をていねいに辿った作品。ジャンル分けでいうと近代群像エッセイだろうか。

子規の養子は正岡忠三郎という名。朴訥だが魅力的な人柄で、どう魅力的かは読んでみなければ分からないが、写生俳句の祖の跡継ぎであることを表に出すことなく平凡に生きた人物。その奥さんがまた良い。
詩人は、タカジ(ぬやま・ひろし)という名。ざっくりした勢いのよいひとだが2度の投獄にも屈しない頑強な思想家でもある。こひとの父がまた面白い人で、離れ島で事業を起こして失脚したかと思えば、樺太開発のリーダーに政府から任命されたりする数奇な人物だったりする。
ともかくこのふたりが親友であったという。

司馬さんは子規の取材を通じて彼らと知り合い、友人となった。かれら、巷間に生きて歴史を支えた「その他の人たち」を描いた佳作。尚、冒頭引用はタカジの詩から。


'83.09.10.第1刷発行
'09.10.20.第10刷発行
記:'12.01.24



非常口